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ジョン・ウォルドロン 社長兼COO
デービッド・ソロモン 会長兼CEO
デニス・コールマンCFO
2023年はゴールドマン・サックスにとって実行の1年となりました。中核事業の強化を図ると同時に戦略の見直しを迅速かつ果断に実行し、その成果に私は満足しています。成長戦略の実行、お客様への卓越したサービスの提供、さらには株主価値の向上に努めてきたことで、2024年とその先に向け、当社はより万全な体制を整えることができました。
2024年、当社の戦略の中心は2つの中核事業にあります。それらの事業ではマーケットリーダーとしての地位と規模に加え、優秀な人材を備えており、その実力はすでに証明されています。そのうえで、CEOとして私は以下の3つの戦略目標を掲げました。
私たちが何者であるかについては少しの曖昧さもありません。当社は、世界で最も重要な企業、機関投資家および個人にサービスを提供する世界有数の投資銀行であり、信頼されるアドバイザー、定評のあるリスクマネージャー、さらには経験豊富な資産運用会社として、その強みを発揮しています。
フランチャイズのさらなる強化
私がゴールドマン・サックスの今後に楽観的なのは、中核となるフランチャイズの強さが理由です。当社には、いずれも世界トップクラスの、相互に関連したビジネスが2つあります。1つは一流の投資銀行1と債券・為替・コモディティ(FICC)およびエクイティ業務から成るグローバル・バンキング&マーケッツ、もう1つはアセット&ウェルス・マネジメントです。ゴールドマン・サックスのアセット&ウェルス・マネジメントは世界有数のアクティブ資産運用会社であり、世界のトップ5社2に入るオルタナティブ資産運用会社です。そして超富裕層向けウェルス・マネジメントにおいても一流のフランチャイズを誇っています。
私たちはこの1年、フランチャイズの強化に引き続き努めてきました。グローバル・バンキング&マーケッツでは、市場リーダーとしてのポジションを維持・強化することができました。アドバイザリー業務の純収益は21年連続でランキング1位を獲得し、株式および株式関連の引受でも1位、ハイイールド債の引受では2位にランキングされました3。また、エクイティ業務でもランキング1位を獲得し、FICC業務はランキング上位3社に入るなど4、これらの業務は2010年以降で2番目に高い純収益を達成しました。
One Goldman Sachsの経営精神とお客様第一主義の姿勢が結果につながったのは明らかです。グローバル・バンキング&マーケッツでは取引シェアが2019年から350ベーシス・ポイント近く拡大し5、FICCおよびエクイティ業務でも、機関投資家上位150社のうち当社が取引金融機関トップ3に入っているのは117社となり、2019年の77社から増加しました6。さらには2019年以降、FICCおよびエクイティ業務のファイナンス収益は年平均成長率で15%増加し、2023年は約80億ドルという過去最高額に達しました。
アセット&ウェルス・マネジメントでは、より持続的な収益基盤の拡大に引き続き努めてきました。顧客サービスと運用成績の向上を重視した結果、資産運用報酬等ならびにプライベート・バンキングおよび貸付事業の純収益は、ともに過去最高額を更新しています。
さらにオルタナティブ投資では、2019年以降の調達金額が2,500億ドルを超え、目標の2,250億ドルを1年早く達成できたことをご報告いたします。4年前、初の投資家向け説明会への準備を進めていた私たちには、1,500億ドルという当初の目標が遠い道のりに思えたことを覚えています。当初の目標も上方修正後の目標も1年早く達成できたことは、当社のプラットフォームの力を証明しています。
こうした当社の業績が、株主の皆様への高い利益還元につながりました。過去5年間で1株当たり純資産は約50%の増加、株価は約130%の上昇(同業他社平均は約60%の上昇)、四半期配当金は3倍以上となりました。
下の表で紹介するように、2024年は優先事項の実行に注力してまいります。当社の戦略目標とこれらの重点分野が、私たちが目指している成果に結びつくと考えています。
当社の戦略はかつてないほど明確になったとのご意見を頻繁に耳にします。それもすべて、2023年の実績によるものとうれしく思っています。
ダイナミックな環境を乗り切る
私が2024年に楽観的であるもうひとつの理由は、当社は資本市場の回復による恩恵を受けることができるからです。当社の中核事業は資本市場の活動と高い相関にあり、2023年はM&A活動が10年ぶりの低水準に落ち込みました。
長年にわたる金融緩和政策と財政刺激策が終了し、経済状況はこの40年で最も早いペースでの引き締めを経験していますが、それでも景気は後退していません。米国経済は期待を上回る底堅さを発揮し、市場では利下げも見込まれていますが、インフレは大方の予想よりも根強い可能性があると私は見ています。いずれにしても、足元の資本コストは確実に上昇しており、市場は適応の過程にあります。
マクロ経済情勢の変化については、お客様との会話からリアルタイムの現場の見方を学ぶことがしばしばあります。そしてこの1年間に一貫したテーマがいくつか浮かび上がりました。低金利しか経験したことがないスタートアップやアーリーステージの企業に金融引き締めの影響が及んでいます。そこで彼らは人材、資本、流動性の確保に力を入れており、その点で、当社の長年の経験と長期的な視野が、お客様にとって極めて貴重であると評価されてきました。
一方、多国籍企業のCEOたちがより注目しているのは、とりわけインフレ、地政学、生成AIといったグローバル経済を動かす構造的な力です。CEOたちによると、消費者の経済状況は特に低所得層において厳しさを増しており、消費者行動には変化が見られるということです。ただし、経済状況が悪化し始めた場合、今のFRBには金融緩和を行う余地もあります。
生成AIが幅広い業界に創造的な破壊をもたらすことに疑いはありません。それでも私は、冷静な見方が重要であると考えています。一部では、AIのコード生成機能は開発関係者の生産性を20%から45%に引き上げる可能性があるという予測もあり9、研究開発における変化のスピードは驚くべき速さです。しかし、導入のスピードは緩やかなものとなるでしょう。最も興味深い活用事例はまだその初期段階にあり、AI技術の可能性が完全に発揮されるには、データの安全性、規制の枠組み、倫理的な検討に関して多くの作業がまだ必要です。とはいえ、AIの能力が向上を続け、企業にとって安全なAIアーキテクチャがこれからも現れてくれば、活用事例の数は大幅に増加していくとみています。
地政学リスクも私たちの頭から離れたことはありません。なかでも3つの火種は、ウクライナ、中東、そして中国です。特に中国について、CEOたちはサプライチェーン再編の是非や方法について議論していますが、中国と米国の経済は今後も強いつながりを持ち続けるでしょう。また、中国経済の重要性は目下低下しているかもしれませんが、長期的には、中国の成長と安定はグローバル経済にとってやはり重要なものとなるでしょう。
規制環境
お客様や投資家は規制環境にも関心をお持ちです。
なかでも、ある規制の動きに厳しい視線が注がれています。米国の規制当局は2023年、大手銀行に求める自己資本要件を引き上げる規制強化案を公表しました。これはバーゼルIII改革としても知られています。金融システムの安全性と健全性を守り高める必要があることは十分に理解していますが、当社の見解では、新資本規制は経済活動を阻害し、金融の安定性を高めることにはつながらない可能性があります。新資本規制はまた、いくつかの意図しない結果につながりかねません。
第1に、製造業、エネルギー企業、年金貯蓄者など多くのお客様にとって信用コストが上昇し、そのコストは消費者に転嫁される可能性が高いでしょう。例えば、年金生活者のためにリターンを高めるのが年金基金ですが、そうしたお客様との一般的な取引においても、私たちは今よりもはるかに大きな資本を引き当てておくことが必要になるでしょう。
第2に、新資本規制は米国の競争力低下につながる可能性があります。欧州の規制当局が域内の銀行に与えたような柔軟性の多くを、米国の規制当局は認めていません。その結果、米国銀行の顧客に対する与信および流動性提供能力が制限され、コストは上昇するでしょう。
第3に、新資本規制は、規制下にある銀行部門から規制外の領域への与信や貸し出しのシフトにつながる可能性もあるでしょう。規制当局にとってそうした領域は透明性がはるかに低い存在であるため、リスクが蓄積され最終的に金融ショックを引き起こす可能性があります。さらに規制当局も認識しているのは、こうしたいわゆる「影の銀行(シャドーバンク)」が市場のストレス局面で大幅に与信を引き締め、市場の流動性をさらに低下させる可能性があるということです。
当社は規制強化案の大幅な修正を積極的に主張していますが、そうした声は当社だけのものではありません。公開されている分析によれば、コメントレターの97%超が、規制強化案の重要項目のうち少なくとも1項目について、重大な懸念を表明しています10。上場および非上場企業、年金基金、そして運用機関の多くが、新資本規制は信用へのアクセスを低下させ、リスク管理をより困難にし、資本市場に損害をもたらす可能性があると主張しています。
健全で安全な金融システムは米国経済が機能する上で必要不可欠ですが、今回の規制強化案は幅広い公共の利益を適切に反映したものではなく、見直しが必要であると当社は考えています。
企業文化への投資
2023年には、私たちの最大の競争力である企業文化への再投資に全力で取り組みました。
パートナーシップ、顧客サービス、高潔さ、卓越性といったコアバリューを基本とした当社の企業文化は、私たちを定義づけるとともに、私たちの存在意義でもあり、ビジネスにおける当社の成功を支える根幹です。
パンデミックの余波や、緊張がさらに高まる世界の変化のなか、当社の企業文化を守り高める責任を、社員ひとりひとり、また全社を通じて再認識するために、Cultural Stewardship Programをスタートさせました。2022年の後半から2024年の初めにかけて19回のミーティングを開催し、私はほぼ全員のパートナーと顔を合わせ、当社の企業文化の特徴について議論してきました。
当社の企業文化がコラボレーションを大切にしていることは広く共有されていますが、私が考える「コラボレーション」とは、単に適切なやり方で共に働く、ということだけでなく、共通の目標や成果の達成に向けて、互いに助け合うことを意味します。私たちの企業文化が重んじるのは、チームワーク、信頼、他者の意見や知識に対する尊重です。また何より、自由なアイデアの交換と知見の共有を促すものであり、これが社員の帰属意識を高めるのです。
当社の企業文化はまた徒弟制の文化でもあります。キャリアをスタートしたばかりの同僚に対して、私たちはビジネスの進め方やお客様との接し方を教えます。しかしそれよりも重要なのは、ゴールドマン・サックスの社員であることが意味する価値観を次の世代に伝えていく義務が私たちひとりひとりにあるということです。そしてそれを表現するのは私たちの行動、すなわち困難な局面への対処法、思考のプロセス、目先のことにとらわれず、お客様と当社の長期的利益を最大化する能力です。
当社の社員は皆、ゴールドマン・サックスの企業文化に対して熱い思いを抱くと同時に、その文化の維持に投資し続ける必要があることを理解しています。当社の成功を最終的に支えているのは私たちの企業文化ですが、それを当たり前のものと考えることは決してできません。
これからの1年に向けて
これからの1年は、一流のソリューションをお客様に提供していくと同時に、当社の企業文化と人材にも投資を行うことで、組織の強化に力を注いでまいります。今後もお客様に最高のサービスをお届けすることができれば、昨年を上回る成果を達成し、株主価値を大きく向上させることができると私は確信しています。環境の変化と簡素化した戦略によって当社の新たな章が始まろうとしています。良好な市場ポジション、幅広く深い顧客フランチャイズ、そして優秀な社員たちを兼ね備えたゴールドマン・サックスの将来が、ますます楽しみです。
会長兼CEO
デービッド・ソロモン
「株主の皆様へ」に関する注記
本文は英語原文の一部を翻訳したものです。本文と原文に相違がある場合には、英語の原文が優先します。
将来予想に関する記述
本文書には、財務目標、事業戦略、資本市場およびM&A活動の水準、AI(人工知能)が生産性に与える影響、米国資本規制ルールの変更に伴う潜在的な影響、金利およびインフレ動向についての記述など、将来予想に関する記述が含まれています。2023年12月31日終了年度に関する当社の様式10-Kの中の将来予想に関する記述についてのご注意を必ずお読みください。今後の当社の業績ならびに将来予想に影響を与える可能性のあるリスクおよび重要事項の一部に関する情報につきましては、アニュアルレポートに含まれる2023年12月31日終了年度に関する当社の様式10-KのパートI、項目1A、「リスク・ファクター」をご覧ください。
脚注
1 公開されている投資銀行業務の2020年から2023年までの累積収益に基づきます。同業他社にはMS、JPM、BAC、C、BARC、DB、UBS、CS(2022年まで)が含まれます。
2 2023年第4四半期現在のランキング。同業他社のデータは公開されている会社資料、決算発表および補足資料、ウェブサイト、eVestmentのデータベースおよびモーニングスター・ダイレクトをベースに作成。ゴールドマン・サックスの2023年第4四半期現在のオルタナティブ投資総額4,850億ドルには、オルタナティブ契約資産残高(AUS)2,950億ドルとフィーが発生しないオルタナティブ資産1,900億ドルが含まれます。
3 アドバイザリー業務の純収益ランキングは、報告された収益(2003年~2023年)に基づきます。株式および株式関連ならびにハイイールド債の引受ランキングは、ディールロジックのデータ(2023年1月1日~2023年12月31日)に基づきます。
4 アドバイザリー業務の純収益ランキングは、報告された収益(2003年~2023年)に基づきます。株式および株式関連ならびにハイイールド債の引受ランキングは、ディールロジックのデータ(2023年1月1日~2023年12月31日)に基づきます。
5 2020年投資家向け説明会以降の取引シェア(2023年と2019年の取引シェア比較)。データは、アドバイザリー、株式引受業務、債券引受業務、FICCおよびエクイティ業務に関して報告された収益に基づきます。合計取引シェアにはGS、MS、JPM、BAC、C、BARC、DB、UBS、CS(2022年まで)が含まれます。
6 出所:顧客ランキング/スコアカード/フィードバック、および/またはCoalition Greenwichの2023年上半期と2019年度の機関投資家顧客アナリティクス・ランキングをもとに、ゴールドマン・サックスが集計した上位150社の顧客リストおよびランキング。
7 過去の自己資本投資には、連結投資目的エンティティや当社が中期的にエグジットすることを意図しているその他のレガシー投資が含まれます(中期的とは2022年末から3~5年の期間を指します)。
8 2023年12月31日現在の5年株価リターン。同業他社にはMS、JPM、BAC、Cが含まれます。
9 マッキンゼー・アンド・カンパニー『The economic potential of generative AI: The next productivity frontier』(2023年6月14日)
10 レイサム アンド ワトキンスLLP『The Basel III Endgame Proposal: Public Comments Snapshots』(2024年2月2日)
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